20230425

  近頃、目の周りが乾燥していたり目の奥のほうに鈍い重みを感じている。きっと目が疲れているのだろうと少し前に買ったロートプレミアムという市販目薬の中では高い部類に入るだろう目薬を指した。この目薬は確か半年ぐらい前に買ったもので、何回かさしてからふと、半年前に買った目薬をさしてもいいのだろうかと不安になった。特に異常はないけれど、これといって効能も感じない。Googleで検索してみると、やはりだめらしい。そもそもこれは厳密にはいつ購入したのだろうとAmazonの注文履歴を確認すると日付は去年の二月になっていた。もう一年以上前のものだった。この目薬を買ってから一年以上経っているなんてにわかに信じがたい。しかしAmazonが僕に嘘をつくわけもない。もしかしたらこんな古い目薬をさしているから、目に違和感があるのかもしれなかった。この古い目薬はゴミ袋に入れて、先ほどまたロートプレミアムを買ってきた。ついでにめぐリズムも買った。思えば目薬を使い切った試しがない。いつも買ってすぐあとはさすのだけど、二回ぐらい点眼したら満足してほったらかしになって、しばらくしてから部屋の片隅で埃にまみれているのを発見する。目薬が必要だから買っているはずなのに、買ったら満足して使わないなんて元々目薬なんて必要なかったのかもしれない。ただ買うときはいつも本気で必要だと思っている。新しく買ってきたロートプレミアムは前の古いやつよりも格段に効いている感じがする。でも目薬ってそんな瞬時に体感でわかるような効能とかないと思うからきっと気のせいだ。

20230424

 エレベーターに乗ったら、階数ボタンの上の小さなディスプレイに「駆け込み乗車はやめましょう」と表示されていた。エレベーターに乗ることを「乗車」と言ったことはないし、そもそもエレベーターを車とみなしたこともない。車の定義はさだかではないけれど、どうせ調べてもエレベーターは合致しないということは予測できる。乗車以外にピンとくる熟語はあるだろうか、と考えてみた。思いつくのは「搭乗」ぐらいだけれど、たかがあの狭っ苦しい個室に入ることに飛行機に乗ることと同じ呼び方をしたくはない。いっそ「乗室」と新しい呼び方をするのはどうだろう。こんな熟語、エレベーターか観覧車ぐらいでしか使えない。

20230423

 一日を最大限に過ごそうと思い、起床してすぐにコメダ珈琲に行った。小説を書くつもりで、背負ったリュックサックの中にはノートパソコンを入れていた。コメダに着くと、店員に「カウンターでよろしいですか?」と言われた。本当はテーブル席がよかったけれど、ひとりだからしょうがないかと思い承諾すると入り口のすぐそばのカウンター席を案内された。席に座り、注文を済ませてノートパソコンを出して開いたけれど、どうも視線が気になってしまいすぐに閉じた。僕の背後にもテーブル席があり、どこからでもよく見えるような席だった。僕のパソコンのディスプレイなんて誰も興味がないし、覗き込む物好きな人間なんていないとは思うものの、そう簡単には過剰な自意識を抑えることはできない。運ばれてきたモーニングを食べていると、ひっきりなしに入店を知らせる鈴の音と案内する店員の声が聞こえてきた。何人目かの客のときに「カウンターでよろしいですか?」と言われた客が「テーブルで」と言うと、そのままテーブル席に案内されていた。なんとなくひとりだとカウンター席以外は座れないと思い込んでいたけれど、言えば案内してくれるのだと知った。モーニングを食べ終わっても、入り口近くのカウンター席ではどうも作業をする気にはなれず、アイスコーヒーを飲みながらKindleで小説を読んだ。昨日しばらく読んでいた中上健次の秋幸三部作が読み終わり、そういえば一月の芥川賞受賞作をまだ読んでいなかったと思い出したので、文藝春秋の電子版を購入して読み進めている。今回の芥川賞はどうやら二作同時受賞で、そうなると受賞作掲載の文藝春秋がますますお得に感じる。騒がしい店内で小説を読み続けていたけれど、当初の目的は朝のうちから小説を書きはじめ、理想的な一日のスタートダッシュを決めることだったと思い出して、アイスコーヒーを勢いよく飲み干し退散した。帰り道で僕は喫茶店で小説を書いたりするのはあまり向いてないなと思った。少なくともカウンター席では周囲の目が気になるし、それはテーブル席でもあまり変わらない予感がする。この頃ちっとも小説を書いていないけれど、喫茶店よりは自宅のほうが向いている気がする。いちばん集中できそうなシチュエーションはインターネット環境がまったくなく、手を伸ばせばすぐに壁に触れそうなほど狭い部屋に閉じ込められるという状況かもしれない、と思った。もう喫茶店に小説を書きに行くことはないだろう。やはり家が至高、というか家で書くしか自分にはないと思って、コメダから帰宅して意気込んだけれど、気がつけば寝る時間で、たっぷりと時間は用意されていたはずなのに1000文字程度しか書かなかった。書いては全部消し、書いては全部消し、と完成することのない小説を書き続けてきたけれど、今回はいい加減完成させてどこかの新人賞に送りたいものだ。毎回そう思っているし、毎回今回こそは本気と思っている。

何もしていないのに壊れた

 起床して枕元に置いてあるスマホに手を伸ばすと、ディスプレイに何やら英字が表示されていた。確かこれはファストブートモードとかいうもので起動したときに表示される画面だ。なぜそんなものが表示されているのだろう、と思いながら電源ボタンを押して再起動を試みる。しかしいくら押せども画面が点灯することはなかった。何回も押して、30分ぐらい長押ししても、うんともすんとも言わない。間違いなくお亡くなりになられている。

 何もしていないのに壊れてしまった。枕元に置いていたといっても、置いていたのは床で、ひどく寒い朝だったから冷気や結露によってショートしてしまったのかもしれない。身の回りのものが色々と故障しはじめていて、それでも何とか使えるレベルだからとそのほぼすべてを調子の悪くなったまま使っていたけれど、さすがにスマートフォンが使えないとなると生活が怪しくなってしまう。もしかしたらと思い、以前使っていたiPhone6という鈍器にSIMカードを差し替えて起動してみるも、どうやらSIMロックがかかっているようで使えなかった。僕が愛用していたのはPixel3で、心なしかバッテリーの持ちが悪くなったこと以外は不便を感じさせないような動作感だったので、もう少しは使えるかと思っていた。もうセキュリティアップデートも提供が終了しているから、買い替えどきと言えばそうなのかもしれない。

 ともかくスマートフォンを新調しなければいけない。以前スマホを買ってから、PCをMacに変えていたし、タブレットiPadを使っているので、次はiPhoneにしたほうが同期の都合がいいかなと思っていてiPhoneについて調べたのだが、やはり高い。下手なPCが買えてしまうぐらい高い。Androidの操作感にすっかりと慣れてしまったこともあるし、そもそもそれほどスマホとPCとタブレットを同期させたりなどしないという言い訳もあるから今回はiPhoneは見送ることにする。加えて、EUからの圧力により次回からのiPhoneでは端子がType-Cになるかもしれないという話もあるから、そもそもいまはiPhoneを買うべきではないかもしれない。

 Amazonで安くていいスマホがないかなと調べると、Xiaomiの『Redmi Note 11 Pro』がヒットした。Xiaomiは評判がよい。スペックを見てみたらなかなかコスパが高そうだった。これでいいかなと思ったけれど、この価格を出すならもう少し出してPixel6aを購入したほうがいいかもしれないと思い、Googleストアに飛ぶとちょうどセールをしていて、前述のスマホより安くなっていた。故障のタイミングでセールが行われているということに何やら作為めいたものを感じてしまう。しかしまさかGoogleが僕のスマホを遠隔で破壊するわけはない。ここは素直に幸運だったと思ったほうがいいかもしれない。綺麗なエメラルドみたいな色の機種があったので、それを注文した。前に爪切りを買ったときもエメラルド色のものを買った。僕は緑色が好きなのだ。

 名称にaとつくいわゆる廉価版ではあるけれど、Pixel3よりもスペック自体は格段とあがっている。惜しむらくはPixel6aは無線充電に対応していなくて、デスクに置かれているPixel standが無用の長物となってしまうことだ。とはいえ、性能もあがり、Felicaも使えて、これからもきちんとアップデートが行われることを考えると十分満足だ。突然の不要な出費ではあるけれど、いくつになっても新しいガジェットを買うのは楽しい。今週末に届く。

ガス警報器

 先週、郵便ポストにガス警報器の点検の知らせが入っていた。それはつまり、ほとんど誰も踏み入れたことのない僕の楽園に誰かが侵入してくるということを意味していた。

 点検日の朝。現状人に見せられる部屋をしているのだろうか、と部屋のなかを見回す。半年前にいらないものを詰め込んだゴミ袋が、どこかに運ばれることもなく二袋もリビングの真ん中に鎮座していた。これは寝室にそのまま運んで隠すことにする。

 他はコンビニでもらったビニール袋が散乱していたり、ものが乱雑に置いてあったりするけれど、及第点だと判断した。しかし、よく見ると床には埃のかたまりがちらほらといる。いまだに埃ができるメカニズムをよくわかっていない。衣服がこすれることにより発生するのかもしれないけれど、持っている服のすべてはそれほど薄くなってはいない。まさか窓の隙間から風が運んでくるわけでもないだろう。ましてや僕の肉体から、このような灰色のかたまりが生み出されるとも信じがたい。とりあえず埃のかたまりは掃除機で吸い取って事なきを得た。

 ガス警報器の場所を確認しておこうと思い、キッチンに向かう。ガス警報器の前の床にはそのまま炊飯器と電気ケトルが置いてあった。地べたに調理家電を置いたままにしていることを見られるのは、いささか恥ずかしい。コンセントを抜いて、それらを、米や難消化性デキストリンプロテインが置いてある一帯に押しやった。結果として床に置いたままだから、あまり効果はないかもしれない。引っ越した当初は、もしかしたらまたすぐに引っ越しをするかもしれない、と特に目処もないけど思っていて、そのせいでもう五年近くもこの部屋に住んでいるのに家具がほとんど揃っていない。途中で炊飯器やらを置く棚が欲しくなったけれど、今更買うとそんなわけはないのに損した気分になってしまうからと買わないままでいた。思えば、布団もクッションフロアの床にそのまま置いている。きっときちんとしたベッドとかマットレスを買ったほうが生活の質は高くなるのだろう。なぜだかずっとその日暮らしの生活をし続けてきた感が否めない。ユーチューブなどで知らない誰かの部屋紹介動画を閲覧するのは好きだけれど、それを自分の身の回りに活かすことができなかった。でもやはり今更、調度品を新調すると負けたような気になるので、質の高い生活はいずれ来るであろう引っ越し後の生活のためにとっておくことにする。

 ひとまずこれでなんとか人に見せられるような部屋になった。そもそも知らない人に汚い部屋を見られても何の害があるわけでもないし、他の人はもっと汚い部屋をしているかもしれないから、特に気にしないでもよかったかもしれない。

 ガス警報器の点検は予定時刻にきた。どうやら警報器の交換を行うらしく、古いものを外し、新しいものに付け替えていた。作業が終わるとガス会社の人は「じゃあ警報器のチェックをしますね」と言って、懐からガスボンベを二本取り出してそれを両手に持ち、あたり一面に噴射した。異臭が漂い、警報器がやかましい音を鳴らすなか、彼は「大丈夫そうですね」と言いながらライターで火をつけて、マンションは全焼した。