脱毛日記

 4年ぐらい前から時折髭の脱毛をしたいと思っていた。毎朝髭を剃るのが面倒くさく、剃ったところで鏡に映るのは青々とした汚らしい肌でかなりみっともない。しかし脱毛に行くことすら面倒くさくて、ずっとほったらかしにしていた。
 ブラウンの安物の電動シェーバーを5年ほど使用しており、そろそろ買い替えるべきかとAmazonを見ていたが、いつか脱毛をするのだとしたらシェーバーなんて新調する必要ないのではという思いもあり、一方で髭脱毛に行く踏ん切りもつかずに、ただただ古いシェーバーを使い続けていた。
 数日前に飲みに行った際に写真を撮る機会があり、その写真にうつる自分を見ると口元の青髭がやはり汚く、そこばかり気になってしまった。酔った勢いのまま、近くの脱毛クリニックを予約した。
 今日の午前にカウンセリングを行い、髭脱毛についての説明を受け、すぐに契約をした。午後に初回の施術を受けられることになり、3時間ほど時間が空いてしまったので、CoCo壱でカレーを食べたりルノアールでコーヒーを2杯飲んだりして時間を潰してから施術を受けた。
 髭の脱毛は痛いという話は聞いていたけれど、そこまででもないだろうと根拠はないが高を括っていた。今まででいちばん痛かった思い出というのを考えてみたら、イボの治療に思い当たる。高校生の時に足の親指にイボができ、皮膚科で治療を行った。その治療というのが液体窒素でイボを焼くというもので、本当に火で炙られているかのごとく痛み、処置後はしばらくまともに歩けなくなるぐらい痛かった。それに比べればマシなのだろうと思っていた。
 髭の脱毛はイボの治療に匹敵するか、もしかしたらそれ以上に痛かった。なんというか、目とか鼻とか口とかの感覚器官の付近だから、足を液体窒素で焼かれるよりも痛みを近く感じる気がした。鼻下も痛いし、顎も痛いし、頬も全部痛かった。レーザーを照射されるたびに体がこわばり、全身から汗が吹き出た。涙も出た。看護師に「痛いの痛いの飛んでいけ」ってしてもらわなかったら耐えれなかったと思う。レーザーを照射する直前に看護師が決まって「行きます」って言ってくれていたのだが、後半になると照射のスピードが速くなり「いきます!いきまっ!まっ!まっ!まっ!まっ!まっ!」と謎の掛け声と共に照射されることになって、ちょっと面白く思えてだいぶ気が紛れた。
 だいぶ涙目のままクリニックを出た。あと9回受ける予定だけれど自分で金払って契約したくせにもう憂鬱になってきた。でもこれでもうすぐ青髭ともおさらばできるとなると楽しみだ。ただもう髭を生やしてダンディーな文豪スタイルになれなくなるのだと思えば少しだけ寂しい。