ガス警報器

 先週、郵便ポストにガス警報器の点検の知らせが入っていた。それはつまり、ほとんど誰も踏み入れたことのない僕の楽園に誰かが侵入してくるということを意味していた。

 点検日の朝。現状人に見せられる部屋をしているのだろうか、と部屋のなかを見回す。半年前にいらないものを詰め込んだゴミ袋が、どこかに運ばれることもなく二袋もリビングの真ん中に鎮座していた。これは寝室にそのまま運んで隠すことにする。

 他はコンビニでもらったビニール袋が散乱していたり、ものが乱雑に置いてあったりするけれど、及第点だと判断した。しかし、よく見ると床には埃のかたまりがちらほらといる。いまだに埃ができるメカニズムをよくわかっていない。衣服がこすれることにより発生するのかもしれないけれど、持っている服のすべてはそれほど薄くなってはいない。まさか窓の隙間から風が運んでくるわけでもないだろう。ましてや僕の肉体から、このような灰色のかたまりが生み出されるとも信じがたい。とりあえず埃のかたまりは掃除機で吸い取って事なきを得た。

 ガス警報器の場所を確認しておこうと思い、キッチンに向かう。ガス警報器の前の床にはそのまま炊飯器と電気ケトルが置いてあった。地べたに調理家電を置いたままにしていることを見られるのは、いささか恥ずかしい。コンセントを抜いて、それらを、米や難消化性デキストリンプロテインが置いてある一帯に押しやった。結果として床に置いたままだから、あまり効果はないかもしれない。引っ越した当初は、もしかしたらまたすぐに引っ越しをするかもしれない、と特に目処もないけど思っていて、そのせいでもう五年近くもこの部屋に住んでいるのに家具がほとんど揃っていない。途中で炊飯器やらを置く棚が欲しくなったけれど、今更買うとそんなわけはないのに損した気分になってしまうからと買わないままでいた。思えば、布団もクッションフロアの床にそのまま置いている。きっときちんとしたベッドとかマットレスを買ったほうが生活の質は高くなるのだろう。なぜだかずっとその日暮らしの生活をし続けてきた感が否めない。ユーチューブなどで知らない誰かの部屋紹介動画を閲覧するのは好きだけれど、それを自分の身の回りに活かすことができなかった。でもやはり今更、調度品を新調すると負けたような気になるので、質の高い生活はいずれ来るであろう引っ越し後の生活のためにとっておくことにする。

 ひとまずこれでなんとか人に見せられるような部屋になった。そもそも知らない人に汚い部屋を見られても何の害があるわけでもないし、他の人はもっと汚い部屋をしているかもしれないから、特に気にしないでもよかったかもしれない。

 ガス警報器の点検は予定時刻にきた。どうやら警報器の交換を行うらしく、古いものを外し、新しいものに付け替えていた。作業が終わるとガス会社の人は「じゃあ警報器のチェックをしますね」と言って、懐からガスボンベを二本取り出してそれを両手に持ち、あたり一面に噴射した。異臭が漂い、警報器がやかましい音を鳴らすなか、彼は「大丈夫そうですね」と言いながらライターで火をつけて、マンションは全焼した。