曖昧な漫画の影

 しばらく前に以前見て良かった映画の監督の最新作の発表があった。その時はティザービジュアルと詳細不明だが原作ありの作品だということしか発表されていなかった。前述の映画がいわゆるエモい系の作品だったので、そういう雰囲気の小説なんかをもとにした映画なのかなと思っていた。
 先ほど、そういえばその映画の続報はあったのだろうかと調べてみたら、どうやら10年ほど前の漫画が原作になっているみたいだった。そしてそのタイトルには見覚えがあり、僕も当時単行本を買って読んでいた漫画だった。3巻までしか出ていないし連載終了してからは何も話を聞かなかったから、ほとんど忘れかけていたので驚いた。確かにあの漫画は面白かったよな、と思ったけれど、どういう終わり方をしたのかもう忘れてしまっていて気になったので電子版でまた購入した。五年ほど前にそれまで集めていた紙の漫画はすべて捨てたので手元にはなかった。
 自分がその漫画を、当時どうして買おうと思ったのかまったく思い出せない。インターネットで見て気になったのか、本屋で見て惹かれたのか、そのどちらかだとは思うのだがまるで思い出せない。昔は気になった漫画をすぐに買って読んだりしていた。そこで新しく世界が広がることもあるし、つまらない漫画を買ってしまったなと憤ることもあった。今は昔よりも金銭的に余裕があるのにそういうふうに知らない漫画を買うということはあまりしなくなってしまった。今は出版社が運営する数多のアプリを駆使して、毒にも薬にもならない漫画を一過性のものとして読んでいるからあまり心に残っていない。家に本を置きたくないから本屋にも行かなくなって、未知の作品に出会うことがめっきり無くなってしまった。大人になってできる範囲が広がったのに頭の中の世界はその分狭くなってしまったように感じてしまうから悲しい。