安物を買い続ける

家にいると窓の向こうから聞こえる音が気になってしまう。それらの音は些細で、たとえば子供がボールを蹴る音だったり、車のドアが閉まる音だったり、誰かの叫び声だったりした。そういう音が聞こえてくると、苛立ちよりも不安感が胸のうちを侵食してきて、何も手につかなくなってしまう。
働いていたときは同じ部屋内に声の大きな女性がいて、その人が声を発するたびに僕の隣に座っていた上司が怪訝な顔をして震えた声で僕に苛立ちを証明していたけれど、僕は集中していたら音があまり気にならなくなるタイプだったので、どちらかと言えば大きな声よりも怒りで震えた声を聞かされることが苦痛だった。
おそらく家だと何に対しても集中していないから、これほどまでに外界からのノイズが気になって仕方がないのだろう。即時的な対策として、僕は家ではノイズキャンセル付きの安価なヘッドホンを常につけている。換気扇の音だとか、冷蔵庫の駆動音とか、室内の隅から聞こえてくる正体不明の音も、すべて聞こえなくなる優れものだ。しかしそんなノイズキャンセリングヘッドホンにも弱点はある。それはつけているとこめかみのあたりが痛くなってくることだ。目が悪いためにメガネをつけていることも関係してくる。メガネのつるがヘッドホンのパッドで押し付けられてこめかみに圧を与えて、痛みを感じてしまっているのだろう。
なるべくヘッドホンをせずにノイズを減らすことはできないかと思い、ノイズキャンセルがついているフルワイヤレスのイヤホンヘッドホンを買った。あまり高価なものは買えない貧民であるから、安くてノイズキャンセリングが強いものをYouTubeを駆使して探し出して見つけたものだ。ノイズキャンセルがついていれば、別にフルワイヤレスじゃなくて、ネックバンドタイプのものでも、というかむしろ家でしか使わないのだからそっちのほうがよかったのだけれど、ネックバンドタイプで目的の機能が搭載されているものはほとんどなかった。フルワイヤレスのほうが圧倒的に需要が高いから、中華企業はそっちのほうに力を入れているのだろう。
ノイズキャンセリングフルワイヤレス安物イヤホンは事前に見ていたレビューの通り、思ったよりもノイズを軽減してくれた。レビューでは結構強いと言っていたけれど、値段が値段だしそれほど信用していなかった自分がいた。疑り深い。
さすがにヘッドホンよりもキャンセル具合は劣るけれども、まあまあ使えそうだ。これで僕のこめかみに一時の安らぎを与えてあげることができるかもしれない。
新しく手に入れたものは、やっぱり使っていたいからずっと家で購入したイヤホンをつけていると、次は耳の内側が痛くなってきた。ヘッドホンとうまく併用して、痛みを分散し続けるしかない。