謎解き睡眠法

うまく夜に眠りにつくことができない。
思い返せば高校生のときは飯も食わずに19時に眠ったりもしていた。きっとあの頃は人生は素晴らしいものだと思い込んでいて自分の将来はまばゆい黄金色に満ちていると信じており不安の一切がなかったから、安らかな睡眠を取ることができたのだろう。
けれども大人になってからは自分の生活の些細なことばかりが気になって仕方がなくて、それが僕の胸に黒いもやもやしたものを充満させて、眠ることが怖くなった。眠れば明日が来る。当然眠らなくても明日は来るのだけど、そんなことを考えてしまって夜の底にいつまでも意識を置いておきたくて、眠りにつかない。しかし自分の理性は眠ったほうがいいと訴えているので、頃合いが来たら布団に入って眠る努力をはじめる。ただ目をつむって暗闇のなかでじっとしていたり、興味のない動画をうつろな目で視聴して「いま無駄な時間を過ごしてるな。眠らせるか」と脳に錯覚させたりする。または意識が消えるまで小説や漫画を読む。ここ何年かはそのどれらも効かなくて、何時間も目をつむったり動画を見たり本を読んだりしてしまっている。
はてどうしたらいいか、と頭をひねって編み出した方法が謎解き睡眠法だ。インターネットで拾ってきた謎解きの問題を確認し、それを記憶して目を閉じながら解法を考える。するとはじめのうちは理路整然としていた思考が謎解きの難解さにあてられてふわふわと霧散していき、気づけば眠りにつくことができる。これを二日続けて、二日とも効果があった。最高の睡眠方法を見つけたぞ、と僕は嬉しくなった。
昨日も続けて謎解き睡眠法をしていたが、謎解きを考えているうちに、胸が痛くなってきた。不安感が明確な痛みを持って僕の胸を締め付けていた。そのまま何とか意識をシャットアウトさせることはできたのだけれど、何度も中途覚醒を繰り返してしまって、起床後も頭には質量のある眠気がずっとこびりついたままだった。原因を考えてみるが、どう考えても謎解き以外には有り得なかった。きっと謎解きがわからなさすぎて、それがストレスになってしまったのだ。謎解きも解ければ気持ちいいが、解けないともやもやするのは当然のこと。そして僕は眠ろうとしていて意識も段々とおぼろになっているので、解ける兆しもないからストレスになることは明白だ。
この睡眠法は体に悪いからもうしないことにする。僕は新しい睡眠法を探すべく旅に出る。