二足歩行の獣

家に引きこもり続ける生活を送っていて、体力がすっかりとなくなってしまった感覚があった。
起床して布団の中でスマートフォンを見続けて、腹が減って適当に食事を済まし、ソファに寝転がってスマートフォンを見続ける。このままではいけないと思い直してデスクに向かって貰い物のワークチェアに座っても、すぐに寝っ転がりたくなってしまう。座りっぱなしのままではどうにも落ち着かない。そうしてだらだらとやったことのないゲーム実況動画を呆然と見続けてしまっていた。
きっと生産的なことを行うために必要な最低限の体力が僕にはないのだろう。持続的な作業を行えるように体力をつける必要がある、と思い、最近は毎日30分程度歩くようにしている。スマートウォッチで30分のタイマーをセットして、右手にバイブレーションを感じたら家に帰る。距離にすると大体3kmから4kmあたり。長くもなく、短すぎずもないちょうどいいところから徐々に負荷を上げていく算段だ。
元々は目的地のない散歩というのが苦手だった。何の意味もないように感じるからだ。そうは言っても家にいたところで興味のない動画を死んだ目をしながら倍速で見てしまうので、体力増加のためにもあてのない散歩をしたほうがマシのはずだろう。
本来ならば起床してすぐに外に繰り出すほうが脳内の活性化の面においてもいいのだろうが、ぼやけた頭の中では散歩に行ったほうがいいとは思いつつも散歩をしなくてもいい言い訳を捻り出しつつ、布団の中で30分ほどもがいてせめぎ合った結果、いそいそと布団から出て、外出着に着替え野に放たれる。雨が降っていたり、調子が悪かったりして散歩をしなかった日もあるけれど、案外一ヶ月ぐらい続いている。このおかげで体力があがって、リフレッシュして万全の体制を持って椅子に座って机に向かい、えんえんと麻雀をし続けている。体力があがったところでまだ生産的なことを行うための回路がつながっていないようだ。体力の次はその回路を整備しなければいけない。
食料や日用品などの日常的な買い物はこの散歩のうちに済ませてしまっているので、すっかりと原付に乗る機会が減ってしまった。今月はおそらく一度も乗っていない。毎月任意保険をきちんと払い続けているのだから、少しでも乗らないと吝嗇の僕は損した気分になってしまう。原付で出かける機会も増やさなければ。
今日も今日とて起床してから散歩に出かけた。風は強かったけれど晴れていて、清々しい気分で歩くことができた。とめどない思考をめぐらせながら歩いていると、頭のてっぺんに何か鋭いものが当たった。そして甲高い声がイヤホンを突き抜けた。肩が跳ねて、声の方向を見やるとカラスが僕に向かって激怒していた。何もしていないのだが、と思い距離を取っても、カラスがついてくる。身の危険を感じて年甲斐もなく全力疾走して逃げた。近くには通行人がちらほらといて、周知の感情が胸の中に満遍なく広がってしまった。僕はただうららかな日差しの中でご機嫌な散歩をしていただけなのに、なぜこうも非情な目に合わないといけないのか。もうあの道は通らないようにする。今日の晩御飯は焼き鳥にした。