すべての人類を破壊する。それらは再生できない。

「すべての人類を破壊する。それらは再生できない。」の6巻が発売されていたので購入した。

オナニーマスター黒沢というWeb漫画があった。インターネットにずぶずぶにつかっている人はおそらく知っているかもしれない。タイトルのとおりオナニーが題材となっている漫画なのだけど、僕は高校生のときにそれを読んで、登場人物の心情や物語の展開が非常に丁寧に作られていて衝撃を受けた。何回も笑って三回ぐらい泣いた。惜しむらくはタイトルのせいで他人におすすめしづらいことぐらいだ。現在はKindleで購入できるし、Kindle unlimitedにも含まれているのでこっちの作品も未読だったらぜひ読んでいただきたいところではあるけれども、今回はオナマスの話をしたいわけではない。

「すべての人類を破壊する。それらは再生できない。」は前述したオナマスの作画:横田卓馬と原作:伊瀬勝良がふたたびタッグを組み、商業誌で連載をしている作品だ。今回は「マジック:ザ・ギャザリング」というトレーディングカードゲームについてのお話だ。

あらすじはこんな感じ。

1998年、神納はじめは、仲の悪い学校の優等生・沢渡慧美と、流行のカードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」を通じて、交流を深めるがーー!?
大声援を受けた90年代MTG青春グラフィティ!

https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_KS01200699010000_68/

正直なところ、僕はマジック:ザ・ギャザリングについてカード名とかルールだとかそういったものは何も知らない。

作中では一応ルールについて説明してはいるのだけれども、すべてを完璧に説明しているわけではないので全容がまったくわからない。登場人物がパックを開封して、手に入れたカードに一喜一憂している場面も多いが、僕はそのカードを一枚たりとも知らない。

けれども、この漫画はおもしろい。

これって何か似たような漫画があったような気がして考えてみたけれど、「ヒカルの碁」とか「アイシールド21」と同じだなと思った。
囲碁のルールなんかまるっきりわからないけれど、ヒカルの碁はめちゃくちゃ面白い。関西の棋士が初手に碁盤の真ん中に碁を置いたときにまわりが「初手天元!?」って驚いている様子とか見て、それがなぜ驚いているのかわからなかった。でも面白い。
アイシールド21もアメフトのルールなんてわからないけれど、すべての試合で手に汗握り、コミックがふにゃふにゃになるくらい白熱する。

ようするに、よくわからない題材であっても漫画の書き方次第で面白くなるのだ。この漫画もカードバトルをしているときの表現の仕方が、何も知らない僕のような人間でも楽しめるようにわかりやすく強弱がつけられている。

そしてこの漫画はマジック:ザ・ギャザリング以外にも楽しめる要素は多くある。

舞台設定が1998年。世紀末。ノストラダムスの予言では恐怖の大王が降りてくるとされている1999年の一年前だ。その終末に近い雰囲気を漂わせた時代に流行っていたテレビ番組とかゲームが作中に出てきたりする。僕はその頃はまだ小学生ぐらいだったので記憶はほとんどないのだけれど、なんとなくノスタルジーを感じる。たまに記憶にあったものが出てきて、「こんなんあったなぁ」とさらに感慨深くなるときがある。このあたりの時代に青春時代を過ごしてきたひとならなおさら強くノスタルジーを感じるのではないかと思う。この在りし日の空気感がたまらない。

スマートフォンなんてもちろんないし、インターネットもそれほど発展していない。そんな時代のなかで主人公やヒロインたちがカードショップにあつまってカードゲームをしたり、大会に出て試合に熱くなったり、ときには恋愛をしたりという青春がこの漫画にはつまっている。

昔の不便だった時代の青春は、現代のそれよりも心でのつながりが密接だったのかなと思った。LINEですぐにつながりあえるというのもいいけれど、連絡をすぐに取り合えないなかで相手のことをお互い思っているのって人間らしくて尊い。そのようなひとのつながりがこの漫画にはこめられている。

マジック:ザ・ギャザリング、世紀末、青春。この単語にひかれたひとは公式サイトで2話まで読めるのでぜひ読んでほしい作品だ。