綺麗な雪と汚い悪口

 雪が降り積もっていた。昨日までは全く雪の気配すら感じられてはいなかったのだけれども、目が覚めてカーテンを開けて外をみると、一面に銀世界が広がっていた。雪というのは僕は好きだ。白く冷たい小さな結晶は神秘性を感じられる。この雑多な世界のなかで美しいものの一つだ。欠点といえば雪に降り積もられると自転車が乗れないことだ。車を持っていない僕の主な交通手段は自転車だ。これが封じられると、歩くか地下鉄や電車などの公共交通機関を使うしかない。ケチな僕はなるべく使用したくないので、この季節はどうも家に籠もりがちになる。

 雪かきは意外と好きである。昨日筋トレをしたので筋肉痛が体を襲うなか、家の前の雪を隣の空き地にせっせと持っていった。腕立て伏せも腹筋も思うようにできない今日ではなかなか良い運動になった。

 まだ初日なので雪もそれほど多くなかった。これからは山のように人々の欲望のように溜まっていく雪を、雪が降る度に隣の空間に持っていくことを考えると少々億劫になってくる心持ちもある。ただこの時季にこれほど雪が降るなんて滅多にない。もしかしたらこれから少し晴れて今ある雪はすべて溶けてしまうのではないだろうか。雪は必ず溶けるさだめにある。そのはかなさも僕は好きだ。

 

 口をひらけば人の悪口を言う人がいる。人を馬鹿にして笑いをとって、自分は面白い人間なのだと信じ切ってしまう人たち。僕はそのような人たちに哀れみを抱いてしまう。もっと、なんか、みんなが楽しくなるような話題が他にあるはずだ。それを思いつかない発想の乏しさがひどく哀れである。悪口なんて生産性もまったくなくて、一時的に暇を潰せるぐらいの効力しかない。空しい気持ちになってこないものかと疑問を抱かざるを得ない。自分が性悪な人間であるとおおっぴらに公開しているだけだ。

 刹那的に生きている人間にとっては悪口という無駄なもので人生を消費させることぐらいしかできないのかもしれない。

 でも僕は人の悪口を楽しそうに話している人間に面と向かって「発想が乏しい」と批判することができないので、へらへらと笑っているだけだ。何も面白くないけど、世の中なんて所詮同調していれば何の軋轢も生まずに進むのだ。だから僕はへらへらと笑う。へらへらへらへら。面白くはない。