夜道

 図書館で借りた本の返却日が明後日だったよなぁまだ読んでいないなぁ、と思いながら返却期日が実はもっと先のことを期待してネットで返却期日と調べてみると、なんと返却期日は今日であった。このときの時刻はすでに23時30分で当たり前の話だがもう図書館は閉まっている。どうしようかと頭を捻らせたら、そういえば返却ポストなんてあったなあと思い出す。

 別に一日延滞したぐらいでどうってことはないだろうしこの時刻に返してももしかしたらアウトなのではないかという疑心もあったが、何となく不安に駆られた僕はこの冷たい夜中にいそいそと図書館へと向かった。この小さなことも気に掛けてしまう繊細なメンタルのせいで今まで何度失敗してきたか、これから先何度失敗するのかも不安になった。「図書館の本なんて延滞し続けて自分の物にしてしまえ!」なんて強靱で自分勝手な精神があったらもっと上手く生きられたのかもしれない。

 溶けかけた雪が夜風に当たって凍ってしまって足場も悪く、何度か転倒しそうになった。図書館は割と近く、徒歩十分ぐらいだったので深夜の軽い運動になって、日中ごろごろとしてた僕にとっては良かったのかもしれない。

 無事返却ポストに本をぶちこむと気が楽になって来て、ホープメンソールに火を点けた。歩きタバコなんて周りからは良く思われていないことも知ってるけれども、もう人も歩いていない時刻だし携帯灰皿だって持っているので、このぐらいは良いだろう。さすがに人通りのあるところで歩きタバコをする輩はこんな僕でも馬鹿なのかと思わざるを得ない。

 冬の夜の空気のなかで吸うタバコはいつもよりも美味しく感じたが、やっぱりどうもこれはゲロみたいな味がして何度かえづいた。

 もともとタバコなんて吸う気などみじんも無かったが、自分の好きなバンドのメンバーや小説家が吸っているので、ひょっとしたらタバコを吸えば高尚な何かが見えてくるのではないだろうかと思い、手を出してしまった。当然だがタバコを吸っても何も良いアイデアなど出てこない。ただ何となく目が覚めるのと、金が減っていくだけである。

 タバコなんか買う金で文庫本の一冊でも買ったほうがよっぽどマシだ。僕は一体なぜこんなものを吸っているのだろうと思い始めて、一二度吸ったタバコをすぐに消した。今ある分が吸い終わったらこんな無駄なものはもうやめよう。僕はこれからは健全に生きるのだ。このブログのテーマは健全な生活にしよう。幸いそれほど依存しているわけではない。気が付いたら一週間吸っていなかったというときもあった。タバコに精神を汚染されてしまう前にやめてしまったほうが吉だろう。

 ただやっぱり僕の思い描く文筆家は着物を着て和室でタバコをふかしながら筆を執るといった姿なので、少々名残惜しい気もある。

綺麗な雪と汚い悪口

 雪が降り積もっていた。昨日までは全く雪の気配すら感じられてはいなかったのだけれども、目が覚めてカーテンを開けて外をみると、一面に銀世界が広がっていた。雪というのは僕は好きだ。白く冷たい小さな結晶は神秘性を感じられる。この雑多な世界のなかで美しいものの一つだ。欠点といえば雪に降り積もられると自転車が乗れないことだ。車を持っていない僕の主な交通手段は自転車だ。これが封じられると、歩くか地下鉄や電車などの公共交通機関を使うしかない。ケチな僕はなるべく使用したくないので、この季節はどうも家に籠もりがちになる。

 雪かきは意外と好きである。昨日筋トレをしたので筋肉痛が体を襲うなか、家の前の雪を隣の空き地にせっせと持っていった。腕立て伏せも腹筋も思うようにできない今日ではなかなか良い運動になった。

 まだ初日なので雪もそれほど多くなかった。これからは山のように人々の欲望のように溜まっていく雪を、雪が降る度に隣の空間に持っていくことを考えると少々億劫になってくる心持ちもある。ただこの時季にこれほど雪が降るなんて滅多にない。もしかしたらこれから少し晴れて今ある雪はすべて溶けてしまうのではないだろうか。雪は必ず溶けるさだめにある。そのはかなさも僕は好きだ。

 

 口をひらけば人の悪口を言う人がいる。人を馬鹿にして笑いをとって、自分は面白い人間なのだと信じ切ってしまう人たち。僕はそのような人たちに哀れみを抱いてしまう。もっと、なんか、みんなが楽しくなるような話題が他にあるはずだ。それを思いつかない発想の乏しさがひどく哀れである。悪口なんて生産性もまったくなくて、一時的に暇を潰せるぐらいの効力しかない。空しい気持ちになってこないものかと疑問を抱かざるを得ない。自分が性悪な人間であるとおおっぴらに公開しているだけだ。

 刹那的に生きている人間にとっては悪口という無駄なもので人生を消費させることぐらいしかできないのかもしれない。

 でも僕は人の悪口を楽しそうに話している人間に面と向かって「発想が乏しい」と批判することができないので、へらへらと笑っているだけだ。何も面白くないけど、世の中なんて所詮同調していれば何の軋轢も生まずに進むのだ。だから僕はへらへらと笑う。へらへらへらへら。面白くはない。

健全になりたい!

 鏡を見る度に思う。

 相変わらず不健康そうな面してやがるって。周りの人にもよく具合悪いのかって聞かれる。僕としては通常営業でも。生まれてからずっと不健康そうって言われてる。

 ファンデーションでも塗ってやろうかな。そういえば今日、ハンバーガーしか食べてない。冷え切った奴。冷え切ってカチカチになったマクドナルドのハンバーガ-を二個。もともと食べること自体あまり好きではない。だってめんどくさいじゃないですか。わざわざ台所に立って、コンロに火をつけてフライパンを熱して、油を垂らして適当な食材をぶちこんで、調味料を適当にぶっかけて、ってこれじゃあ僕の料理は料理と呼べないですね。これでは家畜の餌と変わらない。こんなものを食べて生きているから不健康って言われるんだ。かといって手間暇かけて料理なんてしたくない。顔色が悪いまま生きていくしかない。

 それかやっぱり化粧。女の子のなかには僕と似て不健康そうな面をした奴がたくさんいるはずですよ。それを化粧で隠してあたかも健康に見せている。卑怯なことこの上ない。片っ端からホースで水をぶっかけてその隠れキリシタンどもをあぶり出してやりたい。お前もこっち側の人間なんだろ。なに食わぬ顔でしれっと僕のことを馬鹿にしてるんじゃないぞ。

 最近は上記の通りに、物もあまり食べないので顔が痩けてきてさえもいる。痩けた顔に不健康そうな肌色が塗り尽くされている。このままではいけない。なので、僕は今日筋トレをした。しかし腹はあまり空かない。筋トレをしてもタンパク質を摂らなければ効率が悪かったり、無駄になってしまう。僕の痩せた体のどこにも、筋肉へ変貌する脂肪なんてない。ただ体を痛めつけているだけなのかもしれない。最も一日の筋トレで何が変わるってわけでもないし、これから先も、さらに言えば明日も、僕は再び筋トレをすることなんてないのかもしれない。飽き性で物をほしがらない無気力な人間なんです。でも、やっぱり筋トレは続けようと思う。健全な生活をしていると、堕落した魂が健全な精神に生まれ変わってこれから先の人生が明るく見えてくるかもしれない。これから先の、死ぬまでひたすら労働をするという過酷な現実を受け止めることができるのかもしれない。